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小津安二郎監督映画「秋刀魚の味」

昨年末の記事、
「2008年に観た映画で面白かった作品」でも書いた、
小津安二郎監督の映画、新たに別の作品を観た。


●やはり、小津作品にハズレなし!?最後の映画
「秋刀魚の味」(1962年)

自分が観て、とても面白かった
「秋日和」「彼岸花」と、
同じ登場人物がまたまた出てくる。
友達同士のおじさん達のやりとりが楽しい。
所々にちりばめられている冗談が上質。
軽やかで、爽やかで、趣き深い。
物語は全体的にのびのびとした印象だが、
随所に伏線がはられている。
観ていて、「うまくできてるわ〜」と、
つい口から漏れる。
遺作となった映画。


若かった頃の岩下志麻さんが、
ヒロインに大抜擢された作品でもある。
中井貴一さんの父、佐田啓二さんも
長男役として出演されている。
その長男のお嫁さん役を演じる、
岡田茉莉子さんが非常にチャーミング。
いたずらっぽい目が愛らしく、人間味がある。
この方は、「秋日和」にも友達役として
出演していて、そこでもキラっと輝いていた。


岩下志麻さんといえば、
「疑惑」(1982年)という映画で、
あの桃井かおりさんと共演を果たし、
互いの強烈な個性をぶつけ合っている。
桃井かおりさんが殺人の容疑者役、
岩下志麻さんが女弁護士役。
ラストの2人の対決シーンは見モノ。
映画全体は、2時間ドラマ的な感もあるけど、
俳優さん達の演技への情熱は熱い。
それぞれ適役に見える。
途中に入る、朝焼けの中で車が
海の中からつり上げられる映像が、美しい。

…………………………………………

※以下、映画「秋刀魚の味」のネタバレあり
 なので、先入観を持たずに観たい方は
 ご注意ください。


「秋刀魚の味」の中で、私が特に好きなシーン】

おじさん達が企画した、
学生時代の教師を囲む会での出来事。
“ひょうたん”というあだ名の先生が、
皆さんにお呼び頂いて嬉しいです、と
腰低くひとしきりお礼を述べたあとに、
お吸い物の中に入っている具を
ひょいと箸でつまんで、突然、
「これは何ですか?」と尋ねる。
(この時点で、もう私は笑ってた。)

隣の席の人「ハモですよ」
ひょうたん「ハム?」
隣の席の人「ハモです」
ひょうたん「あぁーハモ(鱧)ですか」
その後、ひょうたんは、
「ハモは、魚へんに豊と書く…」と、
箸で空中に漢字を書き、講釈をたれる。
先生が帰った後、生徒達は、
「ひょうたん、
ハモ食ったことないんじゃないの、
漢字だけは知っててさ」
と言って笑い合う。
ひょうたんは、漢文の教師であった。


他にも、おじさん同士でだましたり、
いろんなシーンが出てきて面白い。

…………………………………………

小津映画を何本か見ていて思うのは、
小津さんの手として、毎度、
初めに登場する若い女性役には、
「はぁ…」「まぁ…」「でももう…」等、
はっきりしない返事をおしとやかにさせ、
こっちに、若い娘なんてこんなもんかねぇ…、
と思わせておいて、
次に登場する女性キャラクターは、
のびのびとリラックスして喋り、
次の女性には、
物怖じせず言いたい事をはっきりと言う
すがすがしい様子を演じさせる。
そうすることで、
若い女性達の生き生きとした姿が印象に残る。
そんな風に描いたように感じる。


また、物語がスタートしてすぐの場面では、
カメラワークに違和感があり、
役者の演技が間が悪く不自然で、
台詞もカタコトに聞こえる。
ちょっとロボットのよう。
「あれ、演技下手なのかな?」と
一瞬思うのだが、物語が進むにつれ、
カメラのひきの場面が増えて、
役者の台詞まわしや動きにも
リアルな人間味が感じられるようになる。
そうしていつの間にか、
映画の中に引き込まれていて、
楽しんでいる自分がいる。


ウィキペディアによると、
カメラの撮り方に関して、
「イマジナリーライン」と呼ばれる
切り返しショットの手法の大原則を
小津監督はあえて破っているらしい。
そのことを知識として知らなくとも、
違和感を強く感じる。
その効果が、上述のものと思われる。

イマジナリーラインについての説明と図解


また今度、小津安二郎さんの映画、観てみよう。

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