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『よつばと!』(面白いマンガ続編)

5/8の記事ここ数年読んだマンガで面白かった作品 ベスト3で挙げそびれたので、続きとして書きます。
『よつばと!』です。

『よつばと!』はほのぼのして笑えて楽しいマンガですが、「これは面白い…!」を超えて「上手い…!」と思う作品です。

以下、詳細。

『よつばと!』
 あずまきよひこ(現在9巻まで刊行)

  

ある夏休みの前日に引っ越してきた5歳の活発な女の子「よつば」と、よつばの保護者である独身の翻訳家「とーちゃん」が、隣の家に住む三姉妹などと過ごす毎日の様子を描く。「よつば」を中心とした周囲の人々の日常の物語。


異常にうまい…。
と思います。
漫画界でまさかの突破口を開き、新たな道を開拓した救世主的作品。

「何の事件も起きない。けど素晴らしい毎日」を面白く描くというのは、小説ではあり得るけどマンガでやるのは非常に勇気がいると思います(ペット観察・主婦目線などのエッセイ漫画でなく、ストーリー漫画で、しかもヒットを狙う場合)。その企画を本物にするために、物語・絵・台詞など全てが丁寧につむがれ、世界観を構築しています。
そして登場人物はみな温かい。
物語が長く続けば続くほど、作者自身のモノの見方や度量・人間力みたいなものが問われてしまう、恐ろしい作品だなと思います。


例えば『サザエさん』のように、登場人物が年をとらず(タラちゃんは「来年になったら幼稚園に入れるよ」と万年なぐさめられ)、ひたすら出口の無い日々を繰り返して、よつば達の“永遠の夏休み”が描かれ続けるのかと思いきや、なんと第6巻で終わらないはずの夏休みが終わりを告げます。…この先どうなっていくんでしょうか。
よつばには出生の秘密が用意されていますが、ほとんど語られない。どうやらそれを暴露して波風立たせるドラマではなさそうです。



そして、カメラワークがうまい…。
キャラクターをとらえる目の位置が緻密に設計されていて、しかもそれが描けるという技術が凄い…。風景も効果的。
『よつばと!』は基本的に第三者的な視点で描かれていることが特徴で、読者はキャラクターが動く姿を切り取られた情景として外から眺めることしかできません。
それはカメラワークだけでなく、言葉にも表れていて、マンガでは登場人物が心の中で思っていることをよく言葉にしてありますが、『よつばと!』ではとーちゃんが考えている事すら言葉にされない。読者に感情移入させないようにコントロールしているかのよう。読者・キャラクター・作者が、一定のクールな距離感を保っている感じです。



『よつばと!』を読むと、
もし手塚治虫先生が生きていたら、どんなふうに対抗するだろうか?という思いになります。
手塚先生は極端な負けず嫌いで、あとから出てくる若手の漫画家の作品の中に自分が描いたことのない方法を用いたユニークなマンガを見つけると、対抗意識を燃やして早速真似をし、そのうえ本人よりも上手く描いて他誌で連載して若手をつぶしてきたといいます。
手塚先生は、マンガでは何かが起きるのが前提と考えていたと思うので、『よつばと!』を見たら一体どんなマンガを描かれるのだろうか、と興味が沸きます。

ちなみに、『よつばと!』は2008年の「手塚治虫文化賞」ノミネート作品であり、また、2006年の「文化庁メディア芸術祭 マンガ部門 優秀賞」受賞作品で、同じく文化庁の「日本のメディア芸術100選」にも選ばれたみたいです。


単行本には、それぞれキャッチコピーが付けられていて、ジーンときます。
第1巻のキャッチコピーは、「いつでも今日が、いちばん楽しい日。」で、作品全体のキャッチコピーにもなっています。
第2巻は、「ただ、ここにいるだけのしあわせ。」です。
(全巻のコピーがウィキペディアに記載あり。)


<かなりの余談>
私が疑問に思っているのは、なぜ三姉妹の次女「風香(ふうか)」の胸が大きいのか?ということです。性的表現を極力排除している爽やかな『よつばと!』の世界で、異質なエレメントだと思います。物語へ集中しようとも、どうも気を取られてしまうので、目に留まらないような普通の胸でいいのではないかと思います。風香の胸の設定によって、長女の「あさぎ」、三女の「恵那(えな)」、更に恵那の友達の「みうら」に至るまで、見え方が変わってくる。(ほんとは「キャラ取り揃えてるな」なんて見方はしたくない…。)これは読者サービスなのか、前作の『あずまんが大王』のファンを逃がさないためなのか…。一応の抑止力としてか、風香だけ眉毛が太い&変なTシャツを着ています。
いずれにせよ、ここまで綿密に完璧を目指して作られているマンガなので、計画された“余地”だと思います。別の物語へと妄想させる糸口を用意しておくことが大事ということでしょうか。

しかし、この辺がなんとなく一般女性に『よつばと!』を薦めにくくしているとも思います。実際、女性に『よつばと!』を薦めるとひかれることがあるというので、ここで紹介するのもビビってます(『家畜人ヤプー』より逡巡した)が、書きました。


そこで、『よつばと!』のように育児や子どもとの触れ合いを描いたマンガでも、女性に薦めやすそうな作品をご紹介します。

『うさぎドロップ』
 宇仁田ゆみ(現在7巻まで刊行)

  

このマンガでは、『よつばと!』の「とーちゃん」にあたるキャラクターが働き盛りの会社員30歳独身男性の「ダイキチ」で、「よつば」にあたるキャラクターがダイキチの祖父の隠し子であり6歳でしっかり者の少女「りん」です。望まれない子どもであったりんをダイキチが引き取ります。一人暮らしの男性が働きながら育児する苦難や、りんの母親をめぐった物語などが展開されていきます。『うさぎドロップ』ではダイキチが心で思っている事も言葉になっています。

絵は、表紙のカラーは柔らかいふわっとしたタッチですが、中のマンガはスタイリッシュで流れるような強めの曲線で描かれていて、魚喃キリコ(なななん きりこ)さんにやや似てます。



出生の秘密無しで、もっとライトに楽しめる作品ならこちら↓

『flat』
 青桐ナツ(現在3巻まで刊行)

  

マイペースな性格でお菓子作りが趣味の高校生「平介」が、忍耐強く無口で非常に気を遣う性格の従弟(いとこ)の幼児「秋」になつかれ、戸惑いながらも初めて自分のペースを崩しつつ接する姿を描いた日常の物語。秋も可愛いですが、平介のキャラもとてもいい感じです。




 
 


●マンガに関する記事:
ここ数年読んだマンガで面白かった作品 ベスト3

しりあがり寿さんの短編集『夜明ケ』の中の「他所へ…」



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